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高森明勅
2020.4.1 06:00皇統問題

政府答弁の「罠」

よく知られているように、皇室典範特例法の
附帯決議には以下のような文言があった。
「政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、
女性宮家の創設等について…本法施行後速やかに…検討を行い、
その結果を、速やかに国会に報告する」と。
政府も、これまで「附帯決議の趣旨を尊重」すると言明し、
繰り返し次のような答弁をして来た。

「安定的な皇位の継承を維持することは、国家の基本に関わる
極めて重要な問題であります。
男系継承が古来例外なく維持されてきたことの重みなどを
踏まえながら、慎重かつ丁寧に検討を行う必要があると
考えています。
また、女性皇族の婚姻等による皇族数の減少については、
皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない
重要な課題であると認識しています。
この課題への対応等については様々な考え方、意見があり、
国民のコンセンサスを得るためには十分な分析、検討と慎重な
手続が必要であると考えています」
(平成31年3月13日、参院予算委員会での安倍首相の答弁)と。

ここで注意すべきなのは、附帯決議では
「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」自体が
「先延ばしすることはできない重要な課題」とされていたにも
拘らず、答弁では「安定的な皇位の継承を維持すること」と
「皇族数の減少等」という2種類の「問題(課題)」に分けられ、
後者について“だけ”「先延ばしすることはできない」と
位置付けていることだ。

前者については「慎重かつ丁寧に検討を行う必要がある」
としか述べていない。
錯覚を招き易い、巧妙な言い回しだ。
このことは、国会の議事録を丁寧に読み込んで来られた
政治家の方から、教えて戴いた。

私自身、何度も目にした答弁ながら、そこにある種の
“トリック”が隠されていることは、迂闊にも気付かなかった。
政府は当面、後者のみ「検討」を行い、最も重要な前者に
ついては「先延ばし」を考えている可能性がある。
しかしそれは、従来「附帯決議の趣旨を尊重」すると
繰り返して来た、政府自らの答弁を裏切ることになる。
決して許されない。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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